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1-5 Claude Codeに渡す指示書を作る

第1章 AI駆動開発とは、コードを書くことではない

想定学習時間: 12分

AI駆動開発におけるClaude Codeへの指示書の作成

要件定義書と事業計画書が完成したら、いよいよ実装フェーズへと移行します。この段階で重要な役割を果たすのが、AI駆動開発における実行部隊であるClaude Codeです。

しかし、Claude Codeに実装を依頼する際、曖昧な指示は避けるべきです。例えば、「このサービスを作ってください」「いい感じに実装してください」「さっき話した内容で進めてください」「全部任せます」といった指示は危険です。Claude Codeは非常に強力なツールであり、ファイルの読み込み、コードの記述、修正、テスト、エラーの解読、さらには大規模な変更まで実行できます。しかし、その強力さゆえに、指示が不明確だと予期せぬ結果を招く可能性があります。

ClaudeプロジェクトとClaude Codeの役割分担

AI駆動開発では、Claudeプロジェクトを司令塔Claude Codeを実行部隊として役割を明確に分けます。司令塔であるClaudeプロジェクトが、開発の目的設定、要件整理、作業範囲の決定、APIコストの管理、人間承認ゲートの設計、実装順序の決定、そしてClaude Codeに渡す指示書の作成を行います。

この役割分担と指示の順序が極めて重要です。Claude Codeは現場で手を動かす担当者です。現場の担当者に、目的、範囲、制約を伝えずに「いい感じにやってください」と依頼すれば、現実のビジネスにおいても事故につながるのと同様に、AIにおいても問題が発生します。

AIは優秀であるからこそ、曖昧な指示でも何らかの成果物を作り出してしまいます。しかし、それが必ずしも意図したものでない場合、後々の修正コストが大きくなることがあります。そのため、Claude Codeに渡す指示書は、非常に丁寧に作成する必要があります。

Claude Code向け実装指示書の作成依頼

指示書を作成する際は、Claudeプロジェクトに「ここまでの要件定義書と事業計画書をもとに、Claude Codeへそのまま貼り付けられる実装指示書を作成してください」と依頼します。この「そのまま貼り付けられる」という点が重要です。人間がその場で補足しようとすると、抜け漏れが生じるリスクがあるため、一度で完結する形式で作成させることが望ましいです。

指示書には、最低限以下の要素を含める必要があります。

指示書の重要項目

特に重要なのが、作業場所の明確化です。AIエージェントは、類似のプロジェクト名やディレクトリ、開発環境と本番環境の混同、古いバックアップや別ブランチでの作業など、人間でも起こしうる誤解を生じさせることがあります。これを防ぐため、指示書の最初に「手順0:作業前確認」を設けることを推奨します。

手順0では、現在のディレクトリ、対象プロジェクト名、環境(本番か開発か)を確認させます。必要に応じてpwdlsコマンドで現状を確認させ、package.json、環境変数、README、主要ファイルなどを確認し、自分が今どこで作業しているのかを正確に把握してから作業を開始させます。AI開発では、作業そのものよりも、この作業前確認が結果を大きく左右することがあります。

次に、今回の目的を具体的に記述します。曖昧な表現は避け、「管理画面を改善してください」といった広すぎる指示ではなく、「管理画面のユーザー一覧ページに、検索機能とステータス絞り込みを追加してください。ただし、今回はCSV出力、権限管理、デザイン全面改修は行わないでください」のように、何をするかだけでなく、何をしないかも明確に伝えます。

「やらないこと」を明記しないと、AIは親切心からスコープを広げ、不要な機能を追加したり、勝手にリファクタリングしたり、関連しそうな箇所まで触ったりすることがあります。これが良い結果を生むこともありますが、特に既存プロダクトを触る本番開発では、広範囲な変更はリスクを伴います。そのため、以下の制約を指示書に含めることが重要です。

これらの制約は、細かすぎるくらいでちょうど良いでしょう。AIに自由を与えすぎると、予期せぬ事故につながる可能性があります。作業はできるだけ小さく切り分け、一度に全てを任せるのではなく、1つの目的に絞って実行させ、完了したら報告させるという流れを徹底します。

AI駆動開発の反復フロー

Claude Codeが作業を完了し「実装しました」「テストしました」といった報告を返してきた場合でも、その報告を鵜呑みにせず、そのままClaudeプロジェクトに貼り戻します。司令塔であるClaudeプロジェクトが、報告内容の不足を指摘したり、変更内容の確認を促したり、実機確認やログ確認の必要性を判断したり、次の修正指示を作成したりします。この反復こそが、AI駆動開発の基本です。

指示を出す、作業させる、報告を受ける、司令塔へ戻す、次の指示を作る、というループを回すことで、Claude Codeを単独で暴走させることなく、Claudeプロジェクトの指揮下に置いて活用することができます。これは、現場担当者が作業し、部長に報告し、部長が次の判断を下すという、現実の組織運営とよく似た構造です。

Claude Code用指示書のテンプレート

Claude Codeへの指示を安定させるために、以下のような指示書の型を持っておくと便利です。

「Claude Code実装指示書」

目的:
今回の作業で達成したいことを明確に記述してください。

対象プロジェクト:
プロジェクト名、作業ディレクトリ、環境(例: 開発環境、本番環境)を明記してください。

手順0:作業前確認
現在のディレクトリ、対象ファイル、起動方法、既存仕様を確認してください。
確認結果を簡潔に報告してから作業に入ってください。

今回やること:
実装する機能、修正する不具合、追加する画面などを具体的に記述してください。

今回やらないこと:
スコープ外の機能、後回しにする機能、触ってはいけない範囲を記述してください。

制約:
新規ライブラリ追加の可否。
API追加の可否。
DB変更の可否。
本番データ操作の禁止。
課金APIの利用禁止。
大規模リファクタリング禁止。
環境変数変更禁止。

コスト方針:
使用するモデルやAPIの方針を記述してください。
高額なAPIを使う場合は、理由と代替案を提示してから止まってください。
低コストモデル、キャッシュ、ルールベースで代替できる場合は提案してください。
(例: ai.ros.co.jp 自身のMP経済圏でのコストを考慮し、効率的な利用を心がけること)

人間承認ゲート:
送信、投稿、課金、削除、DB変更、外部API大量実行など、人間承認が必要な処理を記述してください。

実装手順:
どの順番で作業するかを記述してください。

確認項目:
起動確認。
画面確認。
API確認。
ログ確認。
エラー確認。
既存機能への影響確認。

完了報告に含めるもの:
変更したファイル。
実装内容。
確認したコマンド。
テスト結果。
未確認事項。
残課題。
次にやるべきこと。
注意点。

AIの思考範囲を定義する

Claude Codeに考えさせないことではなく、考える範囲を明確に決めることが重要です。AIは思考し、提案し、実装できますが、どの範囲で思考させるかを決めるのは人間の役割です。アイデア段階や壁打ちの段階では自由に思考させても良いですが、本番コードを触る実装フェーズでは、自由よりも安全、創造性よりも再現性、思いつきよりも証跡が重要になります。

Claude Codeに渡す指示書は、この思考範囲の切り替えスイッチのようなものです。「ここから先は実装フェーズです」「今回はこの範囲だけです」「この制約を守ってください」「危険な処理は止まって確認してください」「終わったら証跡を出してください」と明確に伝えることで、AIはより正確に、意図した通りに実行しやすくなります。

指示書は、AI駆動開発における契約書に近い役割を果たします。何を依頼するのか、どこまで依頼するのか、何を禁止するのか、何を確認するのか、どこで止まるのか、そして完了報告に何を含めるのかを明確にすることで、AIとの協業を円滑に進めることができます。

証跡主義と人間の責任

Claude Codeに作業を依頼した後は、必ず実装結果を人間が確認することが不可欠です。ファイル差分、起動状況、画面表示、ログ、データベースの内容などを確認し、エラーの有無や既存機能への影響を検証します。AIの「完了しました」「動きます」といった報告だけで終わりにせず、何をもって完了とするのか、どの環境で確認したのか、どのファイルをどう変更したのか、何のコマンドを実行し結果はどうだったのかといった「証跡」を確認する姿勢が重要です。

Claude Codeは素晴らしい相棒ですが、責任者ではありません。最終的な責任は人間にあります。AIに任せることは、責任を放棄することではなく、AIが適切に動けるように指示し、確認し、必要に応じて停止させることです。この感覚を持つことで、AI開発の質は大きく向上します。

AIの活用に慣れてくると、「全部やって」から「ここまでやって」、そして「ここまでは自由に考えていいが、ここから先は確認して止まれ」と、より細かくAIの思考と行動を制御できるようになります。この段階に至ると、AIは実務において非常に強力なパートナーとなります。

AI駆動開発では、Claudeプロジェクトで指示書を作成し、Claude Codeへ渡し、結果を戻し、また指示書を作成するという反復的なプロセスで開発を進めます。この流れを習得すれば、アイデア出しから要件定義、実装、そして検証までを驚くべき速度で進めることが可能になります。

Claudeプロジェクトが企画室、事業計画部、そしてPMの役割を担い、Claude Codeが開発部として機能する。あなたは経営者、編集者、そして承認者として全体を統括する。このAI組織の構造を構築することで、一人でも大規模な開発が可能になります。その出発点は、派手なコードではなく、丁寧で明確な指示書なのです。

AIに何を頼むか、何を頼まないか、どこで止めるか、何を確認するか。これらを明確に記述できる人間こそが、AI時代の開発をリードできるでしょう。Claude Codeに渡す指示書は、単なる作業依頼ではなく、AI組織を動かすための重要な命令書なのです。

人にたとえると

ある会社のプロジェクトで、新しいサービス開発を進める場面を想像してみましょう。

まず、企画室とプロジェクト責任者が、開発の全体像や目的を決め、現場の担当者へ作業を依頼するための詳細な依頼書を作成します。この依頼書には、何を作るか、どこまでやるか、何をしてはいけないか、そしてどんな確認が必要かまで細かく記載されます。現場の担当者は、その依頼書に基づいて作業を進め、完了したら報告書を提出します。プロジェクト責任者は報告内容を精査し、必要に応じて追加の指示を出すことで、プロジェクトは安全かつ確実に進行します。

現場の担当者=Claude Code
詳細な依頼書=実装指示書
報告書=完了報告