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AIで似た声を作れることと、その声を商品として販売できることの間には、複数の権利がある。中国で報じられた『原神』の音声パック事件と、最高人民法院が公表したAI関連の裁判指針は、その違いを考える材料になる。声優個人の声の保護と、作品を識別させる事業上の表示の保護を、同じ問題として扱わないことが重要だ。

最高人民法院の文書が示した対象

中国の最高人民法院は2026年9月7日、AIに関係する紛争の審理についての意見を公表した。全5部24条で構成され、人格権や知的財産、製品責任、証拠の扱いなどを取り上げる。新しいAI法を制定したものではなく、既存の法律を具体的な紛争にどう適用するかという裁判上の指針である。

第4条は、自然人の声を本人の同意なくモデルの学習に使い、本人と識別できる合成音声を生成した場合の声の権益を扱う。法律に別段の規定がある場合を除くという留保もある。あらゆる合成音声が違法だとする内容ではなく、誰を識別できるか、同意の範囲は何かという要件を伴っている。

この背景には、個人の声を保護する中国の民法典と、個別事件の積み重ねがある。2024年の北京インターネット法院の事件でも、AIが生成した音声を通じて本人を識別できる場合の声の権益が争われた。録音の利用権限があることだけで、本人に似せたAI音声の開発・販売まで許されたと判断できるわけではない。

『原神』事件で報じられた別の請求経路

イノベトピアが紹介した中国メディアの報道によると、上海市浦東新区人民法院は、『原神』の63キャラクターに対応する音声パックを有料提供したAI変声ソフトについて、不正競争行為の停止と75万元の賠償を命じたという。原告として報じられているのは声優個人ではなく、miHoYo系のゲーム会社だ。

この事件では、キャラクターの声がゲームという商品の出所を示す目印として働く点が問題になったとされる。個人を識別させる声の性質と、作品・サービスを識別させる声の性質は重なる場合があっても、請求する主体や法的な根拠は一致しない。

ただし、本稿で判決文そのものは確認できていない。判決日、被告の詳細、控訴の有無、他の請求との関係も、確認できた報道だけでは確定できない。したがって、確定判決として一般化したり、あらゆるキャラクターの声について同じ結論が出ると断定したりすることは避ける。

また、報道にある学習音声の長さをもとに、「わずかな素材だけで同じ声を作れる」と技術性能を推定するのも適切ではない。ほかの学習素材、モデル構成、評価条件が分からなければ、必要なデータ量を説明する根拠にはならない。

生成の手段と、販売の見せ方は別に検討する

以下は事件から導く実務上の考察である。事業者が声を採用する際には、録音データの取得、学習への利用、生成した音声の公開、特定人物・キャラクターを示して販売することを、別々の確認対象にしたい。

例えば音声素材を正規に購入していても、素材の再生とAIモデルの訓練で許諾範囲が異なる場合がある。モデルを適法に利用できても、商品名や画像、紹介文が権利者の公式サービスと誤認させるようなら、別の争点が生じうる。権利確認を「音源を持っているか」の一項目で終えることはできない。

制作委託では、声の提供者、音源の権利者、サービスを運営する会社の関係を整理する必要がある。生成の用途、使用期間、再許諾、モデルの保管、契約終了後の扱いを明文化すれば、どの段階で誰が判断するかが分かりやすくなる。これは特定の契約条項が法的に必須という意味ではなく、権限の取り違えを防ぐための運用上の提案だ。

日本での提供は日本の基準で判断する

中国の裁判指針や報道された事例が、そのまま日本での結論になるわけではない。人格的な利益、顧客を引きつける力、商品や営業の識別、録音の著作隣接権など、検討すべき対象も、成立要件も分けて考える必要がある。

特に、実在する人の声と架空のキャラクターの音色について、同じ権利関係を前提にするのは早計だ。日本でサービスを出す場合は、実際の素材、表示、契約、提供方法に即して確認することになる。中国の一事例をもって「声を似せれば必ず侵害」「ゲーム会社だけの許諾で十分」といった短いルールに置き換えるべきではない。

最高人民法院の意見は、人格権を扱う条項だけでなく、第12条でAIを利用した権利侵害や不正競争も取り上げている。ただし、『原神』事件の判決がこの意見を直接の根拠にしたと確認できたわけではない。文書の公表と個別事件の報道が近接していることと、法的な因果関係があることは区別したい。

AI音声の利用が広がるほど、権利処理は声を作る直前だけの作業ではなくなる。素材の調達時に用途を確かめ、公開前に表示を確認し、苦情があれば対象を止めて経緯を追える状態をつくる。技術の新しさよりも、許諾と責任の連続性が、正規サービスを継続する基盤になる。

出典:イノベトピアの報道、最高人民法院の公式発表・意見全文。事件の個別事実は報道に基づき、上記の留保を付して紹介した。

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柴亮太
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