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生成AIを使う人が増えたことと、組織の仕事が変わったことは、同じ指標では測れない。令和8年版情報通信白書は、利用経験の広がり、企業の業務への組み込み、そして人の判断や思考への影響を並べている。普及率の一つの数字から、成功や失敗を決める読み方は避けたい。

総務省は2026年7月24日に同白書を公表した。特集は、人間とAIの健全な協働を目指すデジタル社会である。本稿はイノベトピアの解説を参考に、公式の概要と本編、研究資料を確認し、数字の条件と実務上の意味を整理する。2026年11月現在の利用率を新たに測ったものではない。

最初に調査の対象と時点を確認する

概要によると、国際アンケートは2026年1〜2月に、調査会社の登録モニターを対象としてインターネットで実施した。個人調査の日本の有効回答は1,236件、米国・ドイツ・中国は各624件である。年齢と性別を均等に割り付け、15歳未満と70歳以上は対象に含めていない。

企業調査は、日本515件、ほかの三か国は各309件。従業員10人以上で、2025年までにデジタル化の取り組みを始めた企業に勤め、企業全体の戦略などを理解する管理職以上が対象だった。日本の全企業を無条件に無作為抽出した調査だとは言えない。

この条件を付けることは、数字の価値を下げるためではない。何と比較できるかを明確にするためである。個人の回答と企業の回答は母数も設問も異なり、企業調査の結果をそのまま国内のすべての事業者へ広げないようにしたい。

また、公表月は7月でも、アンケートの観測時点は1〜2月である。AIの製品と利用が速く変わる中では、公表時点、調査時点、読者が導入する時点を分ける必要がある。白書の位置づけは、一定の条件で得られた日本の姿を記録した資料である。

58.8%は、継続利用率ではない

日本で一種類以上の生成AIサービスを使った経験があると答えた割合は58.8%だった。前年調査の26.7%より大きく上昇している。ただし、一度でも使った人を含む設問であり、毎日使う人の割合を示す数字ではない。

さらに、今回から15〜19歳が調査へ加わった。20歳以上に限った割合は52.2%である。前年との変化を語る場合は、年齢範囲が変わったことも示したい。単純な倍率だけでは、利用の変化と調査対象の変化が混ざる。

サービスの種類別には、テキスト生成55.0%、画像・動画生成16.3%、プログラムコード生成7.0%、音声生成6.5%、音楽生成5.8%となる。複数の種類を使った人もいるため、これらを足し合わせて人数を求めることはできない。利用経験の増加は、特にテキスト生成の広がりとして表れている。

国際比較では、米国とドイツが75.6%、中国が93.6%だった。日本の経験率が上昇したことと、ほかの国との差が残ることは両立する。一方、コード生成など用途別の差は、職業や仕事の構成なども関わり得るため、割合だけで利用者の能力を評価することはできない。

なぜ使うか、使わないかも別の設問になる

日本で利用理由として多かったのは、無料または安いという回答の53.9%で、時間や手間を省くことの42.8%を上回った。正確・中立そうだと感じるという理由は12.7%だった。ただし複数回答なので、正確さを選ばなかった人全員がAIを信用していないと読むことはできない。

未利用者の理由では、必要ない42.4%、使い方が分からない38.8%が挙がる。米国やドイツより「使い方が分からない」の割合が高いという比較は、利用開始の障壁を考える手がかりになる。利用料を下げることだけで、すべての未利用の理由を解消できるわけではない。

当サイトの考察として、社内研修でも、ツールの機能一覧を紹介するだけでは足りない場合がある。自分の仕事で何を入力し、どこを確かめ、どの結果なら使えるかを示す方が、利用場面へつながりやすい。無料で試せることと、仕事で判断できることを分けて設計したい。

年代別の行動は、全体平均だけでは分からない

日本の利用経験率は、15〜19歳91.7%、20〜29歳78.2%、30〜39歳56.3%、60〜69歳33.5%と、年齢層で異なる。全体の58.8%だけでは、この差を捉えられない。年代ごとの回答数と、何を経験と数えたかも合わせて見る必要がある。

若年層では、翻訳や学習のほか、日常の行動や判断に関する相談にも定期的な利用が見られた。白書は、AIを情報を調べる道具としてだけでなく、相談する相手として使う傾向にも注目している。ただし、相談が多いことだけで、依存や健康上の影響が生じたと判定できるわけではない。

生成AIがどのような存在かを聞く設問もある。日本では機械・道具38.3%、辞書・百科事典28.9%、秘書・アシスタント21.4%が上位だった。他国では友人やカウンセラーという答えも上位に現れる。これは受け止め方の回答であり、AIが専門家や友人と同じ能力や責任を持つことの証拠ではない。

当サイトの考察として、教育や職場の利用ルールでは、質問への回答が流暢であることと、その判断を任せてよいことを分けて伝える必要がある。相談した後に、人や一次資料へ確認する場面を、用途に応じて説明したい。

リスクを知ることと、対策を取ることの間に差がある

白書では、前年と比較できる十のリスク項目すべてで、リスクを感じる割合が上昇した。例えば精巧な偽の映像や音声を本物と思うリスクは74.9%、不適切なAI判断による生命や財産への影響は73.2%、犯罪への悪用は71.5%だった。

新たに加わった、推薦や好みに合う回答によって判断が無自覚に偏るという項目も67.7%となった。こちらは前年の値がないため、増減を比較できる項目へ混ぜないことが重要である。

一方、利用時に気をつけていることでは、生成内容を別の方法で確認する人が38.2%、著作権への配慮14.6%、プライバシーポリシーや規約の理解11.1%だった。特にないという回答は24.6%である。リスクへの意識が高まっても、すべての確認行動が同じように広がっているわけではない。

これらは別々の設問である。同じ人が正確さを利用理由に選ばず、対策も取っていないといった関係は、集計表だけでは分からない。複数の数字から一人の利用者像を作り上げるのではなく、集団としての課題を考える材料として使いたい。

企業の86.4%には、集計の条件が付く

企業利用の本編では、一つ以上の業務で生成AIを使う割合が日本86.4%とされる。前年の55.2%から上昇し、米国90.9%、ドイツ91.6%、中国98.1%との差が縮まった。ただし、活用方針の設問で「わからない」と答えた対象を除いた集計である。

活用方針を定めている割合も49.7%から68.9%へ上昇した。大企業74.0%、中小企業58.1%という差があり、中小企業では前年の34.3%から増えている。方針を作ったこと、実際に利用したこと、効果が出たことは、それぞれ別の段階として読む必要がある。

業務変革への組織的な取り組みがないという回答は、日本27.0%だった。この設問は生成AIの利用を禁止している企業を除いている。米国1.4%、ドイツ4.9%、中国2.6%との違いは大きいが、母数が異なる利用経験率などと直接差し引いて人数を計算することはできない。

企業規模で見ると、組織的な取り組みなしは大企業18.1%、中小企業45.6%だった。社員が個別にAIを使うことから、業務の手順や情報の管理を変えることへの移行に、課題があると考えられる。ただし、この数字だけで個々の会社の遅れや経営姿勢を判定するべきではない。

効率だけでなく、品質と顧客への影響を測る

生成AIの影響として、日本では業務の効率化61.6%、製品・サービスの質の向上32.2%が挙がった。ほかの三か国では品質向上が上位にある。これは期待や受け止め方に関する回答であり、実際の利益や品質改善を同じ条件で測った比較とは違う。

日本の利用では、議事録やメール作成補助の効果を実感する割合が高い。社内の事務作業へ使いやすい一方、研究・商品開発や顧客向けサービスへ広げる際には、別の確認体制が必要になる。短時間で文章が作れることと、顧客に正しい判断を返せることは同じではない。

ガバナンスでも、日本のガイドライン整備は41.1%だが、企画・導入段階の専門的な審査体制は26.1%だった。リスクが分からないという回答は16.5%で、ほかの三か国より高い。社内向けの利用でも、機密情報、個人情報、権利の確認は必要である。

当サイトの考察として、効果測定には、削減した作業時間に加え、修正、確認、問い合わせ、誤りへの対応の時間も含めたい。顧客に使う場合には、誤りが起きた割合と影響、説明できる根拠、人へ戻す経路も評価対象になる。

社内データの整備は、モデル導入とは別の仕事

社内データを学習させたり、AIが参照できるデータベースを構築したりしているという回答は、日本24.5%だった。中国73.0%、米国57.2%、ドイツ54.4%との差がある。利用者が増えることと、組織の情報が使える状態になることは、同時には進まない。

ここで、すべての社内情報をAIへ渡せばよいとは考えない方がよい。必要な文書を選ぶ、更新日と版を整える、アクセス権を反映する、回答の出典へ戻れるようにするなど、データ側の準備がある。紙や共有フォルダーに情報があることと、AIが適切に参照できることは違う。

また、「学習させる」と「検索して参照させる」には異なる仕組みと管理条件がある。集計の設問が両者を含んでいることを踏まえ、一つの技術だけの導入率と説明しないようにしたい。自社で検討する場合は、何を更新し、どこへ保存し、誰が取り消せるかを具体化する必要がある。

使う側の普及と、開発する側の規模も別の指標

白書が引くAI Indexのデータでは、2025年に新たに資金調達を受けたAI企業数は、米国1,953社、英国172社、日本56社だった。これは資金調達した企業を一定の定義で数える指標であり、各国のすべてのAI企業数でも、利用の価値を測る数字でもない。AI Indexの公式案内

この違いは、企業がAIを使い始めたことから、国内に同じ規模の開発基盤ができたとは言えないことを示す。利用率と研究・開発・事業化の条件は、それぞれ測る必要がある。小規模モデルや分野に特化した開発を考える場合も、利用者の数だけでは判断できない。

当サイトの考察として、利用企業にとっては、国別の順位をそのまま調達先の評価へ使うより、必要な機能、データ処理、継続性、サポート、費用を確認する方が実務に近い。統計は背景を知る材料であり、個別の製品選びの結論ではない。

AIと人の思考を扱う研究は、課題の違いから読む

白書は、アイデアを出す課題でAIが支援した研究と、小論文を書く際の認知活動を調べた研究を並べている。前者の研究資料は、AI支援のチームで、短い時間に質の高いアイデアが得られ、知識の交換や多様性にも効果があったと報告する。

後者のYour Brain on ChatGPTは、LLM、検索エンジン、道具なしの条件で小論文を書く参加者を比較した。初めの三回には54人、条件を切り替えた四回目には18人が参加し、脳波、文章の特徴、記憶、自分の成果と感じる程度などを評価した。

同研究では、LLMを初めから使った群の脳の結合の指標や、自分の文章を正確に引用する力が弱かった一方、自分で書いた後にLLMを使った群では異なる傾向が報告される。ただし、小規模で、特定の課題と条件における研究であり、プレプリントである。すべてのAI利用が思考力を下げる、あるいは特定の学習順序で必ず改善する、と一般化できる段階ではない。

アイデアの質と、小論文の記憶や脳波は、測っているものが違う。二つを単純な賛成と反対の票として数えるより、どの活動をAIに補わせ、どの活動を人が続けるかを考える材料にしたい。作業が速くなることと、その人に知識が残ることは別の評価になる。

思考の支援を、確認できる行動へ落とす

当サイトの考察として、仕事でAIを使う場合も、出力を受け取る前に自分の仮説や確認点を書いておく方法がある。AIの答えと違った点について、根拠を調べ、人に説明する。こうすれば、完成文だけを見るより、自分が何を理解し、何を確認していないかを把握しやすい。

ただし、これは本記事で効果を測定した教育方法ではない。業務と学習の目的によって適した手順は異なる。社内で試すなら、作業の品質と時間だけでなく、担当者が根拠を説明できるか、後で同じ仕事を扱えるかも評価項目にできる。

白書が挙げる誤情報の問題も、利用者個人の注意だけでは完結しない。閲覧されるほど利益が生まれる情報の流通構造や、出所を確かめる負担が関わる。AIを使った検知も選択肢だが、検知結果が正しいかを確かめる方法と、普段の行動に組み込める使いやすさが必要になる。

組織の変革は、段階と担当を持つ取り組みになる

白書は、汎用AIで個人作業を効率化する段階、一部の業務へAIとの協業を組み込む段階、プロセス全体を協業前提で最適化する段階を示している。導入した道具を配ることから、業務とデータ、投資判断を見直すことへの移行である。

最初の段階でも、社員が私的な判断で使うシャドーAIへの対応が必要になる。利用できる環境と、入力してよい情報、分からないときの相談先がなければ、利用禁止か自由利用かという大きな二択になりやすい。次の段階では、対象業務、期待する効果、失敗時の対応を決める必要がある。

全体の最適化は、すべての判断を自動化することと同義ではない。人にしか渡せない判断や、例外として止める作業も含めて、仕事の流れを設計し直すことになる。どの段階でも、実際の成果を記録し、次に広げるかを判断する担当が必要だ。

白書の企業事例は、条件の付いた報告として使う

日清食品グループの事例では、効果を見込める対象業務の選定、プロンプトのテンプレート、効果測定を展開し、生成AIの利用率が7割を超えたという経緯が紹介される。単に全員へアカウントを配ったことだけを、利用率の原因とする説明ではない。

アイニコグループの事例は、全十事業部から21人が参加する一年間の取り組みとして、年間2,247時間分の業務時間削減を報告している。広報880時間、不動産897時間、介護170時間などは、総数に含まれる一部の例であり、この三つだけを合計して全体と一致させる必要はない。

これらは企業へのヒアリングなどに基づく事例で、当サイトの独立した比較試験ではない。同じ規模の会社へ同じ道具を入れれば、同じ削減時間になるとは言えない。業務の整理、経営の関与、専門家の支援、継続的な学習といった条件を合わせて読む必要がある。

当サイトの考察として、事例を参考にする際は、削減時間の大きさより、対象をどう選び、何を記録し、誰が確認したかを探したい。自社で再現できる条件と、その会社固有の事情を分ければ、導入計画へつなげやすくなる。

白書と、最新の制度・公開資料を区別する

白書にはAI法、AI基本計画、指針などの制度的な背景も含まれる。ただし、白書の原稿が参照した計画と、読者が確認する時点の計画が同じとは限らない。内閣府のAI基本計画ページは、2026年7月14日と、過去の2025年12月23日の計画を区別して掲載している。

制度への対応を判断する場合には、白書の説明だけで結論を出さず、現在の公的資料へ戻る必要がある。また、白書が掲げる望ましい取り組みと、個別の法的義務を同じものとして扱わないことも重要になる。

統計を自社の資料へ使う際には、データ集と図表の出所、利用条件を確認したい。政府刊行物でも、第三者が提供した図表などは条件が異なる場合がある。本記事は図表の写真を転載せず、必要な数値を条件とともに説明した。

利用率を、次の行動を考える材料にする

白書が描く変化は、AIを使う人が増えた一方、組織の情報や業務の設計には課題が残るというものだ。普及率だけを目標にすると、利用した回数を増やすことが目的になりかねない。必要なのは、その仕事で何が良くなり、何を人が確認するかを決めることになる。

当サイトの提案として、まず一つの業務で、入力する情報、出力の品質、確認時間、残る判断を記録する。効果が確認できれば範囲を広げ、条件が合わなければ手順や道具を見直す。AIを過信することも、すべてを一括して避けることもなく、結果に応じて任せる範囲を変えられる設計が望ましい。

運営会社のRO合同会社の情報も参照し、企業のAI利用では、数字の読み方と現場の確認を結びつけたい。参考資料:総務省の概要、本編PDF一覧、イノベトピア、本文中の研究・内閣府資料。利用率は調査条件付きの回答であり、本稿の実務提案は当サイトの考察である。

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柴亮太
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