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実験装置が良い条件を見つけても、研究者が別の実験へ持ち出せる知識が残るとは限らない。NTTが発表した自律成膜の研究は、条件探索と、その結果を人が実行できる手順へまとめる処理を組み合わせている。自動化の速さに加えて、研究成果の引き継ぎ方を見ると意義が分かりやすい。

NTTは2026年8月25日、ロボットと機械学習を連携したβ-Ga₂O₃薄膜の実験を発表した。公式発表と研究論文に基づき、何を探索し、何を説明できたのかを整理する。

品質を測り、次の実験へ返す

対象となった酸化ガリウムは、大きなバンドギャップを持ち、次世代のパワー半導体や深紫外光デバイスへの応用が期待される材料だ。今回の課題は、大面積化や低コスト化に適するスパッタ法で、高品質な結晶薄膜を得ることだった。他の方法での結晶成長がすべて未達だったという意味ではない。

研究では、温度、スパッタ電力、アルゴン流量、酸素流量の四つを調整する。成膜後の光学測定から品質を評価し、その結果で予測モデルを更新し、次に試す条件を決める。ベイズ最適化は、限られた実験結果から、有望さと不確実さを考慮して探索を進める方法として使われている。

評価の指標はアーバックエネルギーである。光吸収から求め、欠陥や原子配列の乱れと関係する。低い値が光学的品質の向上を示すが、それだけで製品としての寿命、歩留まり、すべての電気特性を保証するわけではない。

182meVと163meVは異なる段階の成果

サファイアのウェハ上で56回の自律探索を行い、182meVの条件に到達した。NTTは、スパッタ法で作った同材料の薄膜として報告値の中で最小と説明している。さらに、その条件をβ-Ga₂O₃基板へ転用し、同社がスパッタ法では世界初とする単結晶薄膜を得た。

その後、探索で集めたデータを解析して抽出したルールに沿い、研究者が再最適化したところ、163meVまで下がった。この順番を省いて、AIだけで163meVを達成したと書くのは適切ではない。人は自律探索の成果を受け取ってから実験しており、人とAIを同条件で競わせた試験でもない。

約3倍という成膜・評価サイクルの高速化も、最終品質の改善率とは異なる。論文では自動化した運用の1日7〜8本と、比較対象となる手作業の約3本を説明している。実験を回せる数、目標へ到達するまでの試行数、得られた品質を分けて評価したい。

探索用モデルとは別に結果を読み解く

探索過程のデータを解析するために使ったのがランダムフォレストだ。複数の決定木を組み合わせた予測から、各条件の寄与と、条件同士の組み合わせの影響を調べる。論文では、この解析は自律ループが次の条件を選ぶ判断とは分けて位置付けられている。

品質の変化の大部分は、四つの条件の影響を足し合わせて近似できた。一方、温度と酸素流量の組み合わせには無視できない相互作用があった。この結果から、各条件を順に調整し、最後に温度と酸素の組み合わせを重点的に詰める、という段取りを取り出した。

単に重要な変数の順位を出しただけで終えず、その段取りを人が実行し、品質の改善まで確かめた点が重要である。ただし、これは成長の物理機構をすべて解明したこととは違う。観測した条件と品質の関係を、人が扱いやすい形へまとめた数学的な解釈可能性として読む必要がある。

無人化と一般化には留保がある

現行の装置には人の作業が残る。ウェハをロードロックへ入れる工程や、成膜後の試料を測定部へ移す作業の一部が該当する。発表の図も半自律という現在地を示しており、実験室全体が完全に無人化されたわけではない。

また、取り出した調整ルールが別材料や別装置でもそのまま働くことは実証されていない。同じ材料・装置の範囲で基板を変える転用と、他の研究室への一般化は別の課題だ。一般化を期待できるのは、探索データからルールを取り出し、実際の実験で確かめる手続きであり、今回の数値や順番そのものを万能なレシピにはしない。

研究論文や査読資料まで読む意味もここにある。広報の見出しでは一つの成果に見えても、探索、後処理、手動での追試、将来の展開には異なる根拠がある。自社へ導入する際は、どの範囲を実証済みとするかを書き分けたい。

国内の研究開発で考えるべき導入単位

当サイトの考察として、同様の仕組みを試すなら、最初に装置の自動操作だけでなく、測定結果の品質管理を決める必要がある。試料の識別、装置状態、測定の失敗、保守履歴が記録されなければ、AIが材料の性質ではなく装置の変動を学ぶおそれがある。

次に、研究者が使える成果物の形を決める。最良の条件表だけで足りるのか、変数の影響、適用範囲、次に試す順番まで必要なのかで解析も変わる。追試で再現できなかった場合の記録を残せば、知識を修正する材料になる。

NTTは複数の評価指標、材料や装置の知識を取り込むモデル、他の材料への展開を今後の課題としている。現段階の成果を量産工程の完成と扱わず、どのように研究者が次の判断へ使えるかを評価したい。自律実験の価値は、試行を増やすことと、試行から学べることの両方にある。

当サイト運営のRO合同会社では、AIを既存の業務や検証工程へつなぐ相談を受け付けている。研究開発でも、結果の生成と確認を一緒に設計する視点が欠かせない。

参考報道:イノベトピア。技術・実験条件はNTT公式資料と論文を確認した。

柴亮太
柴亮太の視点