国内電通グループの4社は9月10日、人とAIが一緒に情報収集から評価まで進む購買行動モデル「AIJES」を提唱した。AIが商品候補を整理する時代にも、人間が納得して決める場面を独立して捉える考え方だ。発表は、従来のAISASが直ちに消えるというものではなく、両者が並走する過渡期も想定している。電通デジタルの公式発表を確認した。
五つの段階は、買ったあとまでつながる
AIJESはArchive=蓄積、Interaction=問答、Judgment=判断、Engagement=参加、Score=評価という五つの要素からなる。提唱したのは電通、電通デジタル、電通総研、電通マクロミルインサイト。名称は発表時点で商標出願中とされている。
このモデルで注目したいのは、購入時だけを対象にしない点だ。生活者とAIが参照する情報が積み重なり、対話を通じて条件が整理され、判断と参加を経た評価が次の情報へ戻る。広告を見せた回数から購入数への直線だけでは捉えにくい行動を考える枠組みといえる。
もちろん、五つの名称を覚えれば顧客の行動を予測できるわけではない。すべての買い物が同じ順序で進むとも限らない。行動モデルは、見落としている接点を議論するための仮説として使うと、実務上の価値を持つ。
企業サイトは、比較の材料を供給する場所へ
以下は編集部の考察だ。AIが相談の入口になると、企業の情報は自社サイトへの直接訪問だけで消費されるとは限らなくなる。仕様や利用条件が別の説明へ組み込まれたときにも誤解されないように、情報を整える必要がある。
たとえば料金には対象プランと適用日、製品の能力には利用条件や制約を付ける。「導入可能」という表現でも、一般提供なのか個別の実証なのかを区別する。AIへの露出を増やす施策の前に、人が読んでも条件を理解できる公式情報を用意することが基礎になる。
掲載された評価や導入事例についても、件数や測定期間を明らかにしておけば、後から参照する人が意味を判断しやすい。出典が追えない優位性の主張を増やすと、比較の材料そのものへの信頼を損ねる。AIが何を参照するかを完全には管理できなくても、自社が公開する事実の質は管理できる。
問答で明らかになる、顧客の条件
検索語を一度入れる場合と違い、対話では希望が途中で変わることがある。値段で選び始めた人が、保守対応や使い勝手を重視するようになるかもしれない。企業側には、商品名に対応した一枚の販売ページだけでなく、比較の途中で生じる疑問への説明が必要になる。
具体的には、向いている用途と向かない用途、契約変更の扱い、解約時のデータなど、購入前に迷いやすい事項を明確にする方法が考えられる。これはAIの回答を操作するための文章を増やすという話ではない。条件が合わない人にも、そう判断できる情報を渡す設計だ。
中央の判断を、AI利用意向と混同しない
参考報道は、電通デジタルの7月の調査で、比較検討にAIを使いたいという回答と、最終決定で使いたいという回答に差があったと紹介する。ただし、利用意向は実際に購入を任せた件数とは異なる。旅行や金融商品でAIへ相談した割合についても、生成AI利用者で購買意欲のある層など、対象者の条件を外して全消費者の割合として引用できない。
企業が自社で確認するなら、AIを使ったかどうかに加え、何を決めるために使ったかを聞くとよい。候補を知るための利用と、契約を確定するための利用では必要な説明が異なる。決め手になったのが価格、担当者への信頼、現物の体験のどれかを区別すれば、AI経由の接触が増えたときにも改善箇所を探しやすい。
他のモデルと並べることで見えるもの
博報堂買物研究所は2025年1月に、対話、推奨、体験、確信・承認、管理を並べる「DREAM」を公式に発表した。93の未来事象を調べ、生成AIによるバーチャル生活者へのインタビューも使って構築した予測である。実際の全生活者を調査して普遍的な順路を確定したという意味ではない。
AIJESとDREAMは、人とAIが関わる買い物を異なる角度から整理している。名称の優劣を決めるより、自社のサービスで顧客がどこで困るかを両方の観点から探すほうが有用だろう。対話は進むが現物の確認が足りないのか、情報は豊富だが契約前の不安が残るのか。違う地図を使うことで、見えていない工程に気づける。
購入後の経験が、次の選択の材料になる
購入後の評価まで見ると、広告部門だけで対応を完結させにくいことも分かる。説明どおりに使えたか、サポートへ尋ねたときに解決したか、契約の変更で予想外の負担がなかったか。こうした体験を公開情報の改善へ戻すには、営業や保守の部門との連携が必要になる。
顧客の評価を集める際には、良い感想だけを増やすことを目標にしないほうがよい。不満の理由を把握し、仕様や案内を修正することが、次の利用者の判断材料の質につながる。AIの回答へ載るための対策と、商品や対応そのものを良くする作業の関係を切らないことが重要だ。
同時に、対話や購入後の記録には個人情報が含まれうる。AIが参照しやすい情報を増やすといっても、顧客との会話をそのまま公開するという話ではない。公開する仕様・条件と、許諾や管理の必要な顧客データを分ける設計が求められる。行動モデルは、個人のすべての行動を追跡してよいという根拠にはならない。
成果を測るときの単位
米国IABもAI時代の可視性に関する測定の指針を公開している。AIの回答に名前が出ることを測る動きがある一方、それだけで販売への貢献は確定しない。質問内容、確認した日、回答の変動を記録して初めて、露出の変化を比較できる。
そのうえで、問い合わせの内容、購入前の離脱、説明後の納得度、購入後の不一致を別に見る。回答で名前が出ても、条件が誤って伝われば良い接点とはいえない。逆に露出回数が増えなくても、誤解に基づく問い合わせが減れば、情報の整備に効果があった可能性がある。
AIJESは成果を保証する製品ではなく、企業の情報と体験を見直すために提唱された枠組みである。日本の企業にとっては、新しい略語への対応を急ぐより、正確な公開情報と最終判断を支える説明がつながっているかを確認する機会になる。
AI活用や情報設計の相談先・運営会社情報はRO合同会社へ。参考報道:イノベトピアのAIJES解説。発表内容に基づく説明と、企業向けの編集部の提案を分けて記載した。
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