0 / 5 節読了

オーストラリアのARIAが、AIを使った楽曲の公式チャートへの参加条件を改めた。焦点は、AIを一度でも使ったかではなく、録音の中心に人間の創作と演奏があるかという点にある。制作現場では、使用ツール名だけでなく、どの工程を誰が担ったかを説明できる記録が必要になる。

ARIAは2026年8月25日に改定を発表し、8月28日公表の8月31日付チャートから適用した。公式発表とFAQを確認し、対象の線引きと運用上の課題を整理する。

AIの使用箇所が条件を左右する

完全にAIで生成された録音や、主要な創作要素を生成AIが担った録音は対象外になる。AIによるリードボーカル、主要な楽器演奏もこの区分に入る。人が後でミックスや音量調整を行っただけでは、参加条件は変わらない。

一方、人が作詞・作曲し、リードボーカルと主な楽器を演奏したうえで、生成AIが補助的な表現を加えた録音は対象になり得る。FAQは、人間の主唱にAIのバックボーカルを重ねる場合などを例に挙げる。さらに、マスタリング、音源分離、リバーブ、人が演奏する楽器の音色など、制作上の限定的な利用も、それだけで除外するものではない。

この区分は楽曲の美しさや人気の点数ではない。同じ曲名でも、誰がどう演奏した録音かによって扱いが変わる。AI生成部分を人間の演奏へ置き換えて録り直した版は、新しい録音として個別に提出できるとFAQは説明している。

検出技術だけで審査する制度ではない

ARIAのFAQは、提出時に生成AIの使用について正確な申告を行うよう求めている。信頼できる懸念が寄せられた場合には、権利者から情報を得たうえで判断する。音声検出器の点数だけで全曲を自動判定するという説明ではない。

このため、制作担当者には、完成した音源だけでは説明しにくい事実を残す意味がある。人が録音した主唱や楽器のトラック、外部制作者との担当範囲、AIツールを使用した箇所と目的などである。ツールの画面にAIという名前があるかどうかだけでは、主要な表現を誰が担ったかは分からない。

ただし、これらは当サイトが考える準備の例であり、ARIAが一律に指定した提出資料の一覧ではない。個別の審査で何を求められるかは、実際の案内に従う必要がある。音源や契約を保存する際には、共同制作者の権利や非公開情報の管理にも注意する。

除外後にも手続きがある

ARIAは、参加条件を満たさないと判断した録音について、調査への受け入れ拒否、将来または過去のチャートからの除外、順位の修正、認定の撤回、ARIAナンバーワン賞の取り消しや返還要求などを行えるとしている。ARIA Awardsへの参加にも影響する。

一方、懸念の内容を本人や代理人に伝え、根拠を示して回答する機会を設ける。判断に異議がある場合は、委員会、その後ARIA理事会へ審査を求める仕組みがある。FAQによれば、審査・除外した録音の一覧を公開する運用ではなく、権利者へ直接通知する。

この手続きを知ると、報道やSNSの推測だけで、特定の作品が除外されたと断定する危うさも分かる。AIらしく聞こえることと、制度上の判断が確定したことは同じではない。人の作品を誤って生成音源と決め付けることも、クリエイターへの不利益につながる。

チャート、配信、著作権は異なる判断

チャートの参加条件を満たさないことは、すべての配信サービスから削除されることや、ただちに違法とされることを意味しない。反対に、チャートへ参加できても、必要な権利処理が済んだことを別途証明するものではない。ARIAは法律、AI表示基準、再生数の操作への懸念も条件として扱っている。

国や団体が違えば、表示を重視する制度、参加条件を絞る制度など、対応も変わり得る。オーストラリアの規則を日本や米国のチャートへそのまま適用しない。海外配信を行う日本の制作者は、配信先、チャート、販売事業者それぞれの最新条件を確かめる必要がある。

元報道はマドンナのカバー曲を巡る騒動や、AI音源の供給増加を背景として紹介していた。しかし、個別曲の制作実態や再生回数だけで、今回の制度全体の効果は測れない。ルールが人間の作品への信頼を守るか、審査の負担や誤判定を増やさないかは、運用を見て評価する部分が残る。

日本の制作チームで今から残せること

AIを含む制作では、完成データに加えて制作工程を管理するとよい。主担当、使用したモデルや機能、入力素材の権利、修正履歴、公開前の確認者を記録する。制作委託の段階で、何をAIへ任せてよいかを合意しておけば、納品後に担当範囲をたどる負担を減らせる。

AIの補助利用を一律に避けるのではなく、創作の中心と補助処理を説明できるようにする。今回のARIAの改定は、その区別を制作の外側にある参加条件へ結び付けた事例として読める。当サイト運営のRO合同会社は、企業の制作・確認工程を含むAI活用の相談先として案内している。

参考報道:イノベトピア。制度の説明にはARIA公式発表とFAQを優先した。

ポッドキャスト燎RYOU課 ポッドキャスト

ポッドキャストを聴く →
柴亮太
柴亮太の視点