買い物の相談先に生成AIが加わったとき、企業は何を変えるべきだろうか。電通デジタルの2026年7月調査は、商品を知ること、候補を比べること、最後に決めることを分けている。「旅行57%」と「最終決定49.6%」は同じ質問の答えではない。数字の意味を確かめると、AIが間に入る購買行動への対応も具体的になる。
まず三つの母数を区別する
電通デジタルの公式発表によれば、調査は日本の15~69歳を対象に実施した。5月8~14日に1万人のスクリーニングを行い、本調査は私生活で生成AIを利用している3,300人を対象とした。調査期間は5月15~18日と7月3~6日である。
したがって、本調査の結果を日本の生活者全員の行動に置き換えることはできない。生成AIを使っていない人は本調査の対象外であり、年齢にも範囲がある。市場全体でAI経由の購買が何割になったかを表す数字とは異なる。
さらに、カテゴリー別の相談経験は、そのカテゴリーに購買意向を持つAI利用者に尋ねたものだ。旅行で57%、金融で56%が直近6か月にAIへ相談したという結果は、全国民の過半数がAIで旅行や金融商品を選んだことを意味しない。食品31%、日用品32%といったカテゴリー差も、対象となる人と質問を踏まえて読む必要がある。
もう一つが将来の利用意向である。こちらは実際に行動した割合ではなく、これから利用したいかを尋ねている。過去の行動、今後の意向、全生活者における普及という三つの話を混ぜないことが、調査の出発点になる。
相談したことと、回答をそのまま採用したこと
AIへ相談する人が増えても、その回答が直接購入を決定しているとは限らない。公式発表では、AIの回答をそのまま最終的な購入判断に採用した割合は2~3%程度だった。相談には、相場を知る、条件を整理する、候補を見つける、質問の観点を増やす、といった使い方も含まれる。
一方、将来の利用意向では、認知段階70.9%、特徴の理解74.9%、比較検討78.8%、購入後72.5%、最終的な購入の意思決定49.6%という結果が示された。49.6%は将来の意向であり、すでに半数がAIに購入を任せたという実績ではない。比較検討での期待が高く、最終判断には慎重さが残る構図と読める。
「AIのおすすめで購入した」という一文だけでも、回答をコピーして検索したのか、販売サイトで条件を確かめたのか、店舗で相談してから決めたのかで意味が変わる。企業が効果を評価する際には、AIが関わった段階と、人が追加確認した段階の両方を捉える必要がある。
情報を増やす前に、比較できる状態にする
以下は調査を踏まえた当編集部の考察である。AIが候補を整理する場面では、商品名や宣伝文句だけでなく、価格の条件、対象者、利用できない場面、更新日などの情報が重要になる。人向けの説明を読みやすくすることと、機械が条件を取り違えにくくすることは、同じ基礎作業につながる。
例えばサービス料金に、初月だけの価格、最低契約期間、追加費用がある場合、それらが離れたページに散らばっていると、AIも利用者も全体を把握しにくい。同じ条件を、ページ本文、料金表、FAQで矛盾なく示すことが先になる。AI向けの文章を大量に公開するだけでは、情報の整合性は高まらない。
掲載内容を変えた後は、変更日と適用開始日を区別したい。古い情報が残る外部サイトや資料から紹介されたときに、現在の条件へ戻れる導線を用意することも必要だ。予約、在庫、提供地域など時間で変わる情報は、確認先を明記し、静的な説明だけで確定したように見せない方がよい。
カテゴリーの違いから、支援の深さを決める
旅行では、日程、予算、移動、同行者の希望など複数の条件をまとめる必要がある。金融では、用語や商品条件を理解する負担がある。相談率が高い背景として、こうした比較の複雑さを考えることはできる。ただし、調査だけから個々の利用動機を断定することはできない。
複雑な商品ほどAIが要約すると便利になる反面、省かれた条件が判断へ大きく影響し得る。料金の一部、適用条件、取消料、リスクの説明などは、短くしたことで意味が変わらないかを確認する必要がある。企業の情報設計では、概要から詳細へ進めることと、重要な制約を概要でも見失わないことを両立したい。
食品や日用品でも、アレルギー、使う場所、寸法、配送条件など、利用者にとって重要な比較軸はある。AI経由で来た人だけに特別なページを作るより、条件を確認しやすい商品情報を整える方が、検索や店舗で調べる人にも役立つ。
企業側も、生活者の使い方から学ぶ
電通デジタルはwith AIラボの説明で、生活者とAIの関わりを捉え、企業の体験設計へつなげる取り組みを紹介している。マーケティングでのAI利用を、社内で広告文を作る効率化だけに限定せず、利用者がどこでAIを使っているかを見る視点だ。
例えば、問い合わせに「AIではこう説明された」と言われた場合、その回答を正しい前提で進めるのではなく、参照された条件と現在の公式情報を確認する必要がある。誤解が多い点をFAQや商品説明へ戻せば、個別対応から情報改善へつなげられる。担当者が回答を否定するだけでは、同じ誤解が繰り返される。
AIを使って検討する人と、使わない人の両方がサービスを利用できることも大切だ。最終判断の際に、人に質問できる窓口や、契約条件を直接確認できる資料を残す。AIを使えることが購入の必須条件になると、調査対象外の人を含む利用者を取りこぼす可能性がある。
購入後の利用まで、説明をつなぐ
購入後にAIを使いたいという意向も高いことから、説明書やサポート情報の整理は販売前と同様に意味を持つ。設定の方法、使える部品、保証の条件などが分かりやすければ、利用者が自分で確認できる場面が増える。一方、故障や安全に関わる問題を、一般的な回答だけで解決させようとしない境界も必要だ。
社内では、販売時の説明とサポートの回答が食い違わないよう、同じ情報の更新を共有したい。商品の版や購入時期によって条件が違う場合には、AIが現在の情報だけで過去の購入者へ回答しないようにする必要がある。利用者の確認を減らすことと、必要な確認を省くことは違う。
将来の利用意向は、サービスを設計する仮説にはなるが、用意すればその割合の人が使うという需要予測ではない。小さく試し、質問の種類、解決できなかった理由、再問い合わせを見て、対象を広げる方法が考えられる。利用者の選択肢を維持しながら実際の行動を確かめることが、意向調査を運用につなぐ過程になる。
流入から購入までを一つの数字にしない
測定では、AIから紹介された回数、サイトに来た数、比較した商品、問い合わせ、購入、購入後の取消や返品を分けることが考えられる。AIへの相談が途中にあっても、ブラウザーの参照元へ残らない場合がある。参照元の数値だけで、AIが関与した購買全体を数え切れるとは限らない。
回答への掲載状況を調べる場合も、質問、地域、日時、モデルの版、会話の文脈で結果が変わる。ある一回の回答で自社が紹介されたことを、安定した獲得経路として見積もらない方がよい。複数の質問と時点で確認し、公式情報との一致、誤った条件の紹介がないかを評価する必要がある。
広告を出す場合は、有料で表示された情報と、自然な回答として紹介された情報を区別して説明したい。AIの文章に溶け込むほど、利用者が紹介の根拠を見分けにくくなる。広告費を払ったことを、AIが客観的に最適と判断した証拠として扱わないことが信頼の前提となる。
売上だけを短期で測ると、情報が正確になった効果や、購入後の行き違いが減った効果を見落とす。反対に、相談数が増えても購入条件の誤認が多ければ、対応費用は増える。問い合わせ内容、修正、取消理由まで追うことで、AIを介した体験の質を評価しやすくなる。
今回の調査は、相談先の変化を捉える資料であり、自動購入が一般化した証明ではない。母数、利用段階、実績と意向を分けて読むと、企業に必要な仕事は、AIへの露出を増やすことに加えて、比較可能な情報と人の判断を支える体験を整えることだと分かる。
参考報道:イノベトピア。調査方法と数値は電通デジタルの公式発表、ラボの方針は同社インタビューを参照した。運営会社RO合同会社では、AIを介した情報提供や企業の業務設計について相談を受け付けている。
ポッドキャスト燎RYOU課 ポッドキャスト
ポッドキャストを聴く →
