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味を守るために、判断の基準をそろえる

食品の味をAIで予測するには、レシピの数字を集めるだけでは足りない。人が感じる「おいしい」を、同じ意味で記録できる必要がある。大塚食品は2026年6月11日、琵琶湖研究所で味・レシピ予測AIシステム「おいしさLENS」を開発し、ボンカレーで活用を始めたと発表した。新商品を自動で作る話にとどまらず、長年の技術を次世代へ渡す取り組みとして注目できる。

正式名称のLENSはLogical Exploration Navigation Systemに由来する。公式説明では、官能評価と試作レシピのデータを使って予測モデルを自社で構築したとしている。原材料の調達条件が変わっても、親しまれてきた味を維持するための検討を支える狙いだ。AIが味を保証するという意味ではなく、研究員が配合の候補を考えるための支援と捉えるのが適切である。

データになる前の言葉を整理する

発表では、ボンカレーゴールドのおいしさを表す218のフレーズを洗い出し、研究員への聞き取りや1,000食以上の評価用サンプルの試作を経て、16種類の評価属性へ整理したという。言葉の意味を共有する作業に約半年をかけた点が重要だ。同じ表現でも人によって指す感覚が違えば、集めた評価を一つの軸で学習しにくくなる。

この過程は、AI導入の前に業務の基準を明らかにする作業でもある。ベテランが自然に区別していた香り、口当たり、味のまとまりを、他の担当者も確認できる形へ移す。数値化はその後の工程であり、先に数字だけを作っても、測っている意味がそろっていなければ比較は難しい。

レシピの探索を、人の試作へ戻す

AIの予測は、材料と配合を変えたときの味を検討する手掛かりになる。原材料の価格や供給が変わる場面で、候補を絞る支援が期待できる。ただし、学習した範囲から大きく外れる材料や製法では、予測の確かさも変わり得る。出力をそのまま製造条件にせず、試作と人による評価で確かめる工程が必要だ。

大塚食品は、約40年分の紙資料をAI OCRで電子化し、開発の情報基盤も整備したと説明している。過去の知見を参照しやすくすることと、味を予測することは別の機能だが、両者をつなぐことで検討の理由を残しやすくなる。資料の読み取りに誤りがあれば、原本へ戻って確認する運用も欠かせない。

食品以外にも通じる技術継承の課題

ここからは実務への考察だ。熟練者の経験をデータにする取り組みは、製造業の外観検査や接客品質の評価にも共通する。どの状態を良いとするか、境界例をどう扱うかがそろわなければ、AIの評価結果も安定しない。まず代表的な事例と、判断が分かれる事例を集め、担当者同士で基準を見直す方法が考えられる。

また、技術継承をAIに任せきると、予測の理由を説明できる人が減る可能性もある。若手が試作と評価を経験し、AIの提案が外れた条件を記録することで、データと人の知見を同時に育てられる。モデルの成績だけでなく、再現性や、未知の条件に対応できる人材が育つかも確認したい。

発表の成果と今後の展開を分ける

同社は他ブランドへの展開も方針として示しているが、すべての製品に適用済みという意味ではない。また、公開資料だけでは、一般の食品開発にそのまま使えるモデルや、他社でも同じ成果が得られることは確認できない。事例の価値は、AIの前段にある基準づくりと、予測を実物の評価へ戻す工程にある。

出典と相談先

大塚食品公式発表、参考報道:イノベトピア。技術継承とAI活用の業務設計については、当サイト運営のRO合同会社へご相談いただけます。

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柴亮太
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